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KUNPU NEWS

2016年5月号のKUNPU NEWSをアップしました。
2016.05.30
今般、特許・実用新案審査基準が改訂され、食品の発明について用途発明としての新規性を認める運用が開始されました。

以前は、用途以外の点で物として従来食品と差別化できない発明については、新たな機能(属性)を発見しても、食品として新たな用途を提供するものではないという理由で、用途発明としての新規性は認められませんでした。しかしながら、用途発明を食品分野でも認めてもらいたいというユーザニーズや、食品の用途発明に基づいた特定保健用食品や機能性表示食品の市場が拡大していること等を受けて、食品の用途発明に係る審査基準が改訂されました。改訂審査基準は2016年4月1日以降の出願に適用され、食品に関する発明の請求項に用途限定がある場合には、用途限定が請求項に係る発明を特定するための意味を有するものとして認定されます。

 

ただし、このような用途発明の考え方が適用されない場合として、化合物・微生物の他に、「動物」及び「植物」が追加された点には留意が必要です。つまり、動物・植物については、用途限定が付されたとしても、用途限定のない動物・植物そのものと解釈されます。

 

特許・実用新案審査ハンドブックの附属書A「新規性に関する事例集」の〔事例30〕には、次のような事例が記載されています。

まず、本願の特許請求の範囲は以下の通りです。引用文献には、血液中のLDLコレステロールを低下させる成分Aが開示され、「グレープフルーツから、血液中のLDLコレステロールを低下させる成分として成分Aが単離され、化学構造が決定された。」旨が記載されています。

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【請求項1】

成分Aを有効成分とする歯周病予防用食品組成物。

【請求項2】

成分Aを有効成分とする歯周病予防用飲料組成物。

【請求項3】

成分Aを有効成分とする歯周病予防用剤。

【請求項4】

成分Aを有効成分とする歯周病予防用グレープフルーツジュース。

【請求項5】

成分Aを有効成分とする歯周病予防用グレープフルーツ。

【請求項6】

成分Aを有効成分とする歯周病予防用食品。

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この事例の結論は、請求項1~4に係る発明は新規性「あり」、請求項5、6に係る発明は新規性「なし」です。

請求項5に係る発明は、「植物」であるグレープフルーツの発明ですので、用途限定のないグレープフルーツと解釈されて、成分Aを含有するグレープフルーツが記載されている引用文献に基づいて新規性なしと判断されています。

一方、本事例において請求項6に係る発明は、本願明細書の記載及び出願時の技術常識を踏まえて判断されています。つまり、「食品としては、グレープフルーツ、グレープフルーツジュース、グレープフルーツ入りゼリーが挙げられる。」との記載や、「成分Aはグレープフルーツに含まれる」との記載が本願明細書中にあり、これらの記載が技術常識と整合することが前提となっており、これらを踏まえて「成分Aを有効成分とする・・・食品」にはグレープフルーツが包含されると認定されています。その結果、請求項6に係る発明は用途限定のない食品として解釈されて、引用文献に基づいて新規性なしと判断されています。

 

審査ハンドブック(上記事例の留意事項)には、“「○○用食品。」との記載は、明細書等の記載及び出願時の技術常識を考慮して、動物又は植物を包含すると判断される場合に、用途限定のない食品として解釈する。”と記載されています。請求項に「○○用食品。」と記載して出願する場合には、動物又は植物を包含すると判断されないように、明細書等の記載に留意する必要があります。

更に、審査ハンドブック(上記事例の留意事項)には、「○○用剤。」、「○○用組成物。」、「○○用食品組成物。」との記載は、通常、動物又は植物を包含するものではないと判断し得る、とも記載されています。請求項においては、「○○用食品。」と記載するよりも、「○○用剤。」、「○○用組成物。」、「○○用食品組成物。」と記載した方が、動物又は植物を包含するか否かについて疑義が生じにくいと思われます。

また、審査ハンドブック(上記事例の補足説明)には、用途限定のないものとして解釈される(動物又は植物であると解釈される)発明の具体例として、「○○用バナナ。」、「○○用生茶葉。」、「○○用サバ。」、「○○用牛肉。」が挙げられており、用途限定のあるものとして解釈される(動物又は植物ではないと解釈される)発明の具体例としては、「○○用バナナジュース。」、「○○用茶飲料。」、「○○用魚肉ソーセージ。」、「○○用牛乳。」が挙げられています。

しかしながら、同補足説明には、“審査における個別具体的な判断は、明細書等の記載及び技術常識も踏まえてなされる“と記載されています。つまり、動物又は植物に該当するか否かの具体的な判断基準は、審査ハンドブックにも明示されておりません。

例えば、前述の審査ハンドブックの具体例でいえば、「牛乳」は「動物ではない」と判断され、「牛肉」は「動物である」と判断されていますが、どのような判断基準に基づいてこのような切り分けがなされているのか、疑問を持たれる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

この点については、食品の用途発明について議論された審査基準専門委員会WGの中でも議題にあがっており、また、先日開催された食品の用途発明の認定についての説明会において特許庁調整課審査基準室室長の田村様も言及されていました。

田村様は、用途限定のないものとして解釈される動物・植物に該当するか否かについて、①加工されているか?、②動物・植物の体の部分か?が判断時のキーワードになると述べられていました。

前述の具体例でいえば、「牛乳」は通常加工後に流通されるので「動物ではない」と判断され、「牛肉」は動物の体の部分であるので「動物である」と判断される、ということになります。

また、上記説明会では、動物又は植物であると解釈される例として「卵」や「種子」も挙げられており、加工されているために動物又は植物ではないと解釈される例として「発酵茶葉」や「小麦粉」などが挙げられていました。更に、動物・植物の体の部分でありつつも加工が施されている「加工牛肉」や「冷凍肉」などの判断は、ケース・バイ・ケースであるとも述べられていました。

 

改訂審査基準の運用開始により、食品分野において用途発明に関する出願が増加すると考えられます。出願事例の蓄積に伴い審査ハンドブックの内容が改訂される可能性もありますので、今後も注視していきたいと思います。