Page top

BLOG

  • 代表BLOG
  • 東京BLOG
  • 名古屋BLOG
  • English
  • 中文
  • 한국어

知財トピックス

「不実施補償」について
2014.12.03
A大学とB企業が特許権を共有する場合の契約条項に、しばしば「不実施補償」が登場します。これは、A大学は特許発明を業として実施できないから、これを実施できるB企業に補償を求めるという取決めです。この「不実施補償」の法的根拠について、少し考えてみます。

まず、特許権は特許発明に対する所有権と言えますから、特許権者は他の所有権(例えば土地)と同様に、これを自由に使用(実施)できる権利があります。特許法でも共有特許権者は特段の定めがない場合には自由実施できる旨が規定されています(特許法第73条第2項)。

A大学が、教育研究機関であるその性格により自ら製造・販売等の実施がきない事情に基づいて、B企業に対して「不実施補償」を求める理由は、B企業にA大学自らが将来的にも実施しないことを明約することによって、B企業だけに特許発明を独占的に実施できる権利を与える、その対価と考えることができます(A大学からB企業に独占的実施権を設定する形式をとることもあるようです)。ここで、A大学は最初から(出願時から)特許発明を実施できないことは分かっていたはずなので、B企業としては不実施補償を納得しにくいと思いますが、特許権を将来的に確実に実施しないこと、すなわち所有権を行使しないことを約束する対価として、事実上単独特許権者となるB企業に対して金銭的補償を求めるのは法的根拠があると言えると思います。

民法の共有物分割請求においても、共同購入した土地や建物(例えば、別荘)を一方の所有者・甲が使用しなくなった場合、これを他方の所有者・乙と間で分割し、これを金銭化して清算することがありますが、本件もこれと同様と考えることもできます。仮に、一方の所有者・甲が土地購入当初は投機目的等だけでその土地自体を使用しないことがわかっていたとしても、将来的にその土地を100%使用しないとまでは言い切れないのですから、所有者・甲がその土地を今後使用しないことが確定することに基づいて、乙との間で分割請求することにより清算することは可能です。

なお、A大学が自らの共有特許を「金銭的に清算する方法」としては、自己の持分をB企業に譲渡して譲渡金を得る方法(価格賠償)や、B企業に資力がなくて前記方法がかなわないときに特許権を第三者へ譲渡し、A大学とB大学がその譲渡金を分け合う(代金分割)などの方法もあるでしょう。

「不実施補償」の契約条項は企業側からは強い抵抗があるようですし、また大学は契約の自由度や柔軟性が欠けるという問題がありますので、個人的には、大学と企業の特許共有契約では、大学側は「不実施補償」の概念に深く拘泥することなく、研究費助成や技術指導料などの名目により、柔軟に企業と契約をしていくのが良いと思います(執筆:W)。