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KUNPU NEWS

2018年8月号のKUNPU NEWSをアップしました。
2018.07.30
平成29年6月8日、特許維持審決に対する審決取消訴訟において、知財高裁が明細書のサポート要件に関して注目すべき判決を下しました(平成28年(行ケ)第10147号)。本事件は、対象特許の評価試験からでは、請求項に係る発明がその発明の課題を解決できることを当業者が理解できるとはいえないとして、審決のサポート要件の判断に誤りがあると判断し、審決を取り消したというものです。

本事件の対象となった特許は、株式会社伊藤園のトマト含有飲料に関する特許です(特許5189667号)。
平成27年1月9日にカゴメ株式会社が実施可能要件違反、サポート要件違反、新規性・進歩性欠如を理由に本件特許に対して無効審判(無効2015-800008)を請求しました。無効審判において株式会社伊藤園が行った訂正請求が認められ、審理の結果、平成28年5月19日に請求棄却審決(特許維持審決)が下されました。訂正後の請求項1と、本件特許の解決しようとする課題は以下の通りです。
「【請求項1】
糖度が9.4~10.0であり、糖酸比が19.0~30.0であり、グルタミン酸及びアスパラギン酸の含有量の合計が、0.36~0.42重量%であることを特徴とする、
トマト含有飲料。」(下線は訂正請求によって訂正された箇所です)
「【0008】
本発明は、(中略)主原料となるトマト以外の野菜汁や果汁を配合しなくても、濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがあり且つトマトの酸味が抑制された、新規なトマト含有飲料及びその製造方法、並びに、トマト含有飲料の酸味抑制方法を提供することにある。」

本事件は、上記無効審判の請求棄却審決に対して、カゴメ株式会社が訂正要件違反、実施可能要件違反、サポート要件違反、新規性・進歩性欠如を理由に審決取消訴訟を提起したものです。

本件特許では、特許請求の範囲に記載した「食品の成分や組成等に係る要素(糖度、糖酸比、グルタミン酸及びアスパラギン酸の含有量)」と、本件特許に係る発明の課題である「風味(酸味、甘み、濃厚)の改善」との関係を明らかにするために、パネラーによって風味の評価を行っていました。風味の評価は12人のパネラーが行い、「酸味」「甘み」「濃厚」それぞれにつき「非常に強い(+3)」~「非常に弱い(-3)」の7段階で評価したことが明細書に記載されており、各風味の評点の平均値とその合計、総合評価が表で示されていました。

本事件では、主に下記の事項が争点となりました。
( i ) 発明の解決しようとする課題である「風味(酸味、甘み、濃厚)」を得るために、「各要素(糖度、糖酸比、グルタミン酸等含有量)」だけを特定すれば足りるのか?
( ii ) そもそも本件特許の評価試験が適切だったのか?
知財高裁は上記 ( i ) に関して、本件特許出願日当時の技術常識からすれば、上記各要素以外の成分及び物性も、トマト含有飲料の風味に影響を及ぼすと当業者は考えるだろうと指摘しています。そして、上記各要素の数値範囲と風味との関連を評価するにあたっては、少なくとも下記のような方法がとられなければ、当業者が直ちに各要素の数値範囲と風味との関係の技術的意味を理解できないと判断しています。
①上記各要素のみが風味に影響を与えることを技術的に理解できるように説明する
②他の要素(粘度等)も風味に影響を与える可能性がある場合は、
1)他の要素の条件を一定に揃えて風味評価試験を行ったことを記載する
2)他の要素の条件を一定に揃える必要がないことを技術的に理解できるように説明する

また、知財高裁は上記 ( ii ) に関して、各風味の評価を1点上げるにはどの程度その風味が強くなればよいかをパネラー間で共通にするなどの手順が踏まれたという記載や、各パネラーの個別の評点の記載がないことを指摘し、パネラーによって評点のばらつきが出ることが否定できず、各風味が客観的に正確に評価されているとは言い難いと述べています。さらに、各風味の評点の平均を単純に足し合わせて総合評価する方法についても、本件特許における風味評価試験として合理的であったと当業者が推認することもできないと述べています。そして、以上のことからすれば、本件特許の風味評価試験からでは当業者が発明によって得られる効果を理解できるとはいえないと判断しています。

以上より、知財高裁は特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合しないため、審決を取り消す旨の判決を下しました。なお、本事件は平成29年6月22日に株式会社伊藤園が上告受理申立を行いましたが、平成30年6月27日に申立が却下され、判決が確定しました。今後は、特許庁で再び審理が行われることになります。

本事件を踏まえて、発明の課題を解決できたかについて評価試験を行う出願では、今後サポート要件の判断が厳しくなることが予想されます。特に食品分野や化粧品分野等、ユーザー視点でパネラー評価を行うことが多い分野に関しましては、知財ご担当者様や発明者様とご相談しながら、弊所でもサポート要件や評価試験の在り方について改めて検討していきたいと考えております。

(参考)
知的財産高等裁判所 平成28(行ケ)10147 判決要旨
http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/825/086825_point.pdf